2023-12-16から1日間の記事一覧

ふわふわと力のなくなったアイツ

私は穏やかな気持ちになっていた。 既に昔のことになっていたし 子育てに夢中だったから、心はそれほどかき乱されることはなかった。 アイツは どうやらその頃の記憶が曖昧で、あまり覚えていないらしい。軽く記憶喪失気味だと言う。 死んだということは狂言…

見覚えのあるアドレス

第二子を妊娠、出産し 子育てに奔走していた頃 『貴方は誰?』 というメールが届いた。 暗記するくらい見慣れたあのアドレス… 一瞬、体中の血が逆流するようにひいた。 アイツのメールアドレスからだった。 アドレス帳からは消去していたので差出人の名前こ…

◇第二子妊娠で◇

アイツのことも 夫のことも 全部わかった上で心から愛してくれた人 しかしその後 彼のあまりの気持ちの強さに、微妙な関係になりかけた頃 私は夫の子どもを妊娠した 彼は 打ちのめされ 距離をおくことになった

狂言

強く愛してくれた人は アイツの訃報に打ちのめされていた私のために アイツのお葬式などのことを秘密裏に調べてくれた すると アイツは死んでいなかったことがわかった オーバードーズをしたのは本当だったのかもしれないが 要するに 狂言めいた芝居を私に対…

【アーカイブ⑳】

2009年5月26日記 息が苦しい心臓がドキドキする血の気がひく血が逆流する手先に血がめぐらない気持ちが悪い体が重い当日は眠れなかった昨夜は何度も目が覚めた1秒たりとも頭から離れることはない何をしても集中できない キッチンにカラのペットボトルが2本並んでおいて…

【アーカイブ⑲】

2009年5月25日記 昨晩 アイツが 自ら命を 絶ちました 知能に障害のない隠れた自閉症と鬱、更に付随する様々な症状に苦しみぬいた ずっとずっと ずっとずっと死に憧れを持ち続けた彼は ついに願いを叶え ついに安住の地に 旅立ちました

◇新しい出会いと別れ◇

アイツに想いを残しながらも彼の気持ちがわからず、ツラい日々を過ごしていたその頃 私は 私の個性、内面、私の存在そのものを愛してくれる人に出会った すべてをまるっと愛してくれる 心も体も隅々まで 爪の先まで愛してくれた アイツとのことも全て理解し…

【アーカイブ⑱】

2009年4月29日記 今年に入ってからは更に連絡も会いに来ることも減っていた。 近年、アイツは私の肉体しか求めてこなかった。心を感じたことはなかった。 ずっとそれでもイイと思っていたけど虚しさと悲しさに苛まれる毎日。それでいいわけない。自分だって幸…

発達障害の診断と苦しい日々

アスペルガーという言葉を聞いたのはその時が初めてだった。 『知的な発達に遅れがない高機能自閉症だって。「あなたを理解できる人はあなたしかいない」って医者から言われたよ… 障害者なんだよ。』 アイツはショックを受けている様子だった。 しかし彼はア…

あの頃のアイツと私

思い返してみれば 2008年のこの頃は 連絡は数週間来ないことがザラとなっており 「会おう」と提案してくるのは1〜2ヶ月に1回程度 実際に実現されるのは数ヶ月に1回 という頻度だったと思う。 近くまで来ても連絡せずに通り過ぎているのはわかっていた。 …

【アーカイブ⑰】

2008年9月30日記 アイツはいつも 走って車に近づく私の姿を見つけ、車のドアを開けた瞬間に 笑顔を隠した表情を一瞬見せ、何食わぬ顔をする。 私はそれを見るのが好きだった。 私が連絡ミスをして会う約束ができなかった時、怒って私の所に来るのをやめよう…

【アーカイブ⑯】

2008年9月23日記 長い間、アイツは慢性不眠症を患っている。職業柄、徹夜が多く不規則なため、更に不眠症に拍車がかかった。寝なきゃいけないのに眠れないプレッシャーに悩まされ、安定剤と共に強力な睡眠薬を使っている。数ヶ月前には、いろいろな出来事が…

頭の悪い奴は死ねという

アイツは物凄く頭が良い。 身体能力が非常に高い。 手先も器用だ。 オシャレでセンスがいい。 尊い立派な仕事をしている。 要するにポテンシャルが非常に高い人間だ。 下世話な話、ルックスも私の好みだった。 私は頭が悪い。 綺麗でもないし、他にも別にい…

【アーカイブ⑮】

2008年9月23日記 アイツとはしばらく音信不通だ。 もう2ヶ月以上会っていない。 連絡もとっていない。 今はどうか知らないが、最近まで忙しかったはずだ。 アイツは子供の頃、物凄く早熟だったという。 普通の人がしないような経験も数多く、私がちょうど結…

【アーカイブ⑭】

2008年8月23日記 アイツは『死』に憧れを持っている。自分で自分の命を終わらせたいと思っている。なんのために生きてるのか?って、出会った時には既にそんなふうに考えていた。普通の若者とちょっと違う10代を過ごしたらしいから、そのせいなのか。 いつ…

【アーカイブ⑬】

2008年8月30日記 汗ばんだ肌が私の上にかぶさり、アイツの体の重みを上半身に受ける。 全力疾走したかのように速く脈打つ心臓を、私は右胸に強く感じ あまりにも速い鼓動に少し心配になり 『大丈夫?』 と声をかける。 そして私は横になったまま、うつろな意…